• 大町久美子:皆様こんにちは。第二回のテーマは、島耕作シリーズでは欠かせない、彼の人生において出逢ってきた様々な格言・アドバイスを与えてくれた"上司"の方々にインタビューをしながら、彼の魅力を探ります。

    まずは私の父でもあり、島さんの会社「初芝電産」の初代会長、吉原初太郎さんにお伺いしたいと思います。

     
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    吉原初太郎:おう久美子、元気にしとるかね。

  • 大町久美子:お父さんお久しぶりです。そういえば私、島さんと結婚したんです。

     
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    吉原初太郎:おお、そうか。彼を選ぶとはお前らしいな。おめでとう。

  • 大町久美子:ありがとうございます。お父さんの中で島耕作ってどんな社員でしたか?

     
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    吉原初太郎:そんなに話した事はないが、中沢と島は当時からなかなか気概のあるやつで、高く評価しておったよ。まあ、ワシにビビって何も言えない雰囲気の中、直談判しにきよったのは良く覚えとるよ。

  • 大町久美子:まあ、それってなんだったのかしら?

     
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    吉原初太郎:本社の中庭にクリスマスツリーを作ったときなんだが、ワシは宇佐美には配色が地味じゃないかと思ったから明るくしてはどうかと言ったんだが、どうもそれを作り直せと島くんに伝えたらしい。島くんはツリーがものすごく良い出来だったので、納得がいかなかったんだろう。わざわざワシの車まで来て一回見てくれと直談判しにきたんだよ。

  • 大町久美子:まあ、そんなことがあったのね。確かに実直な人だけど意外だわ。

     
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    吉原初太郎:まあその後宇佐美にたっぷり睨まれたらしいがな。それもサラリーマンの宿命だな。自分の信念に勇気を持って行動できる人間は強いぞ。まあ、島くんを選んだお前の目は正しかったって事だ。

  • 大町久美子:ありがとう、お父さん!

     
  • 大町久美子:では続いて大泉裕介さんにお伺いします。

     
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    大泉裕介:おう、大町くん!久しぶり。

  • 大町久美子:大泉さん、お久しぶりです。大泉さんは吉原初太郎の娘婿ですが、東大卒、四井銀行出身で、その実力で会長まで上りつめた実力派でいらっしゃいますね。

     
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    大泉裕介:おいおい、よせよ。サラリーマンの出世なんて8割が運だよ。

  • 大町久美子:あら、それを大泉さんがおっしゃると、嫌みに聞こえますわよ(笑)

     
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    大泉裕介:…いや、参ったな(笑)

  • 大町久美子:大泉さんは島さんには何かと目をかけられていましたよね。それはなぜですか?

     
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    大泉裕介:まあ、自分の女を寝取られてはいるが(笑) 仕事はできるやつだ。当初はウチの派閥に入れと言っていたんだが、どうやらその気も無いらしい。それがやつの生き方なんだな。俺みたいな政治を制して権力のど真ん中にいたいと思っている人間からすると、ちょっと羨ましいのかもしれん…。今となっては典子が好きになったのもわかる気がするな。

  • 大町久美子:仕事にも女にも真摯ですからね、彼は。

     
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    大泉裕介:そうだな。以前京都のフェスティバルホールに緞帳を寄与する際に、手書き友禅の大御所、松本瑞鶴に無理を承知で依頼させたら島は上手くまとめやがった。あれであいつも俺も社内での評価が一気に高まった。フィリピンでの樫村との件もそうだが、ああ見えてなかなかできるやつだよ。

  • 大町久美子:でも、あれをまとめる事ができたのは、実は鈴鴨かつ子さんのおかげなんですよ。

     
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    大泉裕介:なに?どういう事だ?

    そうか…そんな事があったんだな。まあ俺もあいつには典子の件で惨めな思いをさせられたから、おあいこってところだ(笑) 惨めな気持ちや辛い気持ちを抱えてみんな大きくなっていく…。それでもやらなきゃならん。上司の命令は絶対だ。サラリーマンのつらいところだな。

  • 大町久美子:私も長い間島さんのそばにいるけど、本当に男の人って大変だなって思います。でもそれを乗り越えていく姿をみる喜びも女にはあるんですよ。

     
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    大泉裕介:そうか、典子も最後までそういう気持ちでいてくれたかなぁ。

  • 大町久美子:きっとそうですよ。

     
  • 大町久美子:さて、お次の方は島さんが最も尊敬する上司であり、彼の行動理念に多大なる影響を与えた中沢喜一さんです。

     
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    中沢喜一:大町くん、久しぶりだね。カカカ(笑)

  • 大町久美子:島さんはあなたとの出会いが無ければ今の自分は無いと言い切るほど中沢さんの事を尊敬していらっしゃいます。

     
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    中沢喜一:そうかい? まあ、彼の一匹狼的な性格が私と合ったんだろう。私も派閥は作らなかったからね。

  • 大町久美子:島さんはまだ新人時代に中沢さんから「自分の信念を曲げるな」と教えられてから、自分の生き方が大きく変わったと言っていました。周囲からの人望も厚く懐の大きい人物で、出世しても偉ぶるところはなく、部下を守るため時には上司にも楯突くなど、やっぱり島さんと似ているところがありますね。

     
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    中沢喜一:うん、まあ島くんとは仕事の事からプライベートまでいろんなことを語り合った仲だからなあ。島くんとの仕事は大変な事も多かったけど、おもしろかったよ。

  • 大町久美子:まあ、それはどんなお仕事だったんですか?

     
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    中沢喜一:大町くんも一緒にいたアメリカのコスモス映画の買収の時かな。とにかく前代未聞の大仕事だったからね。俺も島くんも初めての事ばかりで毎日気が気じゃなかったよ。カカカ(笑)

    あれは日本でも過去最大の企業買収だったからな。とにかくライバル会社との競争、駆け引きはもちろん、コスモス側のアメリカ式のやり方にも度肝を抜かされたよ。特にバクスター・ゴードン会長がスタジオに自ら火を付けた時にはビックリしたな。そのスケール、価値観の違いに圧倒されたもんだよ。

  • 大町久美子:ええ、あれは本当にビックリしました。まさか自分の資産に火を付けるなんて思いもしませんでした。

     
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    中沢喜一:まあでも島くんはあの時やり遂げた自信が後に繋がっているんじゃないかな。今世界中で活躍できているのもグローバルな視点を持っていることが高く評価されている。それはあの経験があったからこそだと思っているよ。

  • 大町久美子:私にとっても大変有益な経験でした。それに島さんとずっと一緒にいられたし(笑)

     
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    中沢喜一:そうか、そりゃよかった。カカカ(笑)でもまあ、その後の島くんの活躍を見ればそれが正しかったってことだな。社長になってからも世界中で結果を出していた。それこそ万亀くんからしてみれば懐刀だった。派閥は作らないとはいえ、社長会を作っただろう。会社の為を第一に考えた彼らしい選択だよ。

  • 大町久美子:中沢さん、ありがとうございました。中沢さんならではのお話が聞けたと思います。

     
  • 大町久美子:では最後にお伺いするのは、島さんが取締役になってからは、まさにパートナーとしてテコット(旧初芝電産)を率いる万亀健太郎さんです。

     
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    万亀健太郎:これはこれは会長夫人(笑)どうも、万亀です。よろしく。

  • 大町久美子:万亀さんは初芝電産社長、その後初芝電産相談役・会長、そして初芝五洋ホールディングス会長を歴任し、現職は、テコット相談役でいらっしゃいます。島さんとは万亀さんが社長、島さんが取締役時代からずっと一緒にいらっしゃるイメージがありますね。

     
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    万亀健太郎:そうだね、島くんは優秀だから私はだいぶ楽をさせてもらった。

  • 大町久美子:万亀さんといえば、義理人情に厚く、自分が一度面倒をみるとなったら、最後まで貫き通すその姿勢は、高い評価を得られています。ひとえに初芝五洋に合併してからも上手く会社が機能しているのは万亀さんという求心力があるからだとも言われています。

     
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    万亀健太郎:いやいや、そんな事はないよ。島くんをはじめ、国分くん、小栗くん、勝浦くんと非常に優秀な人材ばかりだからね。私はある意味みんながやり易いようにしているだけだよ。特に島くんなんかは中沢さんの直系だろう。彼のいいところを吸収してどんどん成果を上げてきた。サンライトレコードで業績を回復させたのもそうだし、初芝貿易でワイン事業を成功させたのも彼の功績だ。ワインなんか後に中国での展開においても国分くんと一緒に成功させている。逆境をバネにしてちゃんと結果を残してくれたからこそだよ。

  • 大町久美子:でもそれがなかなかできないものですよね。島さんも万亀さんとは長く一緒にいましたから、素晴らしい方だと言っていました。そしてそれは女性の愛し方にも現れていると…。栗原豊子さんとの関係も20年以上にわたって愛人として添い遂げられたのは、普通はできないものですよ。

     
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    万亀健太郎:男にとって本当に愛する女の存在というのは大事だからね。私が会長なんて大役を務めあげることができたのも、ひとえに豊子の存在が大きいからな。

  • 大町久美子:ではやはり大泉さんの葬儀の時に馬島典子さんに喪主を務めさせたのも、何か胸に込み上げてくるものがあったのでしょうか?

     
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    万亀健太郎:大泉さんが亡くなった時、あの二人の関係を思い出していたんだよ。なぜか自分の境遇と重なってね。大泉さんが誰に喪主を努めてもらいたいかと思ったら、やっぱり典子だろうと思ったんだ。

    ご家族には申し訳ないとも思ったんだが、典子さんの気持ちも考えるとね。

  • 大町久美子:粋な計らいでしたわ。

     
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    万亀健太郎:まあ、大町くんも島くんを支えてあげてくれたまえ。大町くんは若いが、島くんももう66歳だからな。しかしこれからは会長としてまだまだやってもらわなければならない事がたくさんあるぞ。よろしくたのむ。

  • 大町久美子:わかりました、お二人のようになれるよう頑張ります!

    皆さん第二回目の"人"編では、島耕作に影響を与えた上司にインタビューしながら彼のGENTな一面を探ってみました。やはり人は一日にして成らず。いろんな経験や出会いを経て、より洗練されていくのですね。

    私も新しい出会いを求めて週末はカムリでドライブに出かけようかしら。